「毒親」を責めるのが筋違いな理由

今回は前回に引き続き、精神科医香山リカ氏の著書
『スピリチュアルにはまる人、はまらない人』に対する反論です。
この本で著者が主張する、現代のスピリチュアルの考え方の問題の2番めについて、今回は取り上げます。

「毒親」を責めるのが筋違いな理由

香山氏の主張する2つ目の問題点は
「自分の悩みの原因を前世にあるとすることによって、
 現世で自力で改善しようとする意欲を持たなくなる」
というものです。

アメリカでは1980年代から、そして日本でも1990年代からは
輪廻転生とか生まれ変わり、それに関連して自分の前世を
霊能者にリーディングしてもらったり、ヒプノセラピストのもとで
催眠をかけてもらい、自分の前世をイメージ体験する、
といったことが一大ブームになりました。

前世を知りそれと現在の人生の悩みの関係が説明されることにより、
現在の理由のわからない不安感や、特定の人との
人間関係についての新たな視点が提供され、
より広い視野で対応することが可能となる、というのが
前世療法が有効な仕組みです。

前世情報とされる内容が提供される形は、霊能者によるメッセージ
(最近では「スピリチュアルカウンセリング」と呼ぶ場合も多いですが)
の他に、催眠療法中に、自然発生的にクライアントの心の中に
イメージや感覚として浮かび上がるという場合があります。

タイタニック号で溺死した前世

例えば異常な冷え性と海への恐怖感がぬぐえず
その理由がわからないというクライアントの例が
コミック「不思議クリニック」(第3巻)の中にありますが、
前世でクライアントはあの大型客船タイタニック号に乗っており、
船底の3等室から脱出することができず溺死した、と告げられます。

もちろんこれが「真実」かどうかはわかりません。
しかしそこで、前世の感覚を引きずっているだけだ、と思うことにより
「現世では既に違う人生を生きており、過去に縛られる必要はないんだ」
と感じることができ、これによって
気持ちの区切りをつけることができるのです。

不安や恐怖感は、理由がわからないときに最も大きく、
対処法も思いつけないものですが、理由づけされると
(たとえそれが真実かどうかは証明されなくても)、
そうした気持ちは大幅に減らせることが多いのです。

前世療法や心理療法で今回の人生が生きやすくなる理由

同じことは何も前世を持ち出さなくても、
心理療法の分野ではよく認められるものです。

また、催眠療法でも現世の過去のできこと
(それは数日前から、幼少期といったかなり前のことまで含めて)
を思い出す「年齢退行催眠」というのがありますし、

心理療法でも何回か面接しているうちにふと、
それまで思い出しもしなかった体験、
例えば親との会話や行動について思い起こしたりします。

そうしたときにはしばしば、当時の自分のありありとした感情も
伴って蘇るのですが、催眠療法にしろ他の心理療法にしろ、
その時もしくはその直後にセラピストが適切な介入をすること
例えば共感しサポートし、あるいは固定してしまっている
クライアントの視点以外の見方を提示するなどをすることによって、

過去の体験そのものは変わらないが、それに対する本人の受け止め方が
変わり、そのおかげで自分を責めたり、親を恨んだりといった
非生産的な感情や思考の中に囚われてしまうのではなく、
より合理的かつ自分が楽になる考え方を身につけられるようになるのです。

・・・

例えば幼少時に両親が離婚した場合、子供の心理の傾向として、どうしても
「自分がいい子にしていなかったから、
 ママは自分を捨てて行ってしまった」
と受け止めがちです。

そして、特に強い感情を伴った体験にはその当時の思考が
ぴったり張りついていて、
それは本人が成人し他の分野では立派に大人の考え方ができるのに、
その体験関係だけは幼児期の思考がそのまま存続するという特徴を持ち、
これについては意識的に(つまり催眠療法なり他の心理療法で)
改めて検証するまで、不思議なほど無修正で存続するのです。

だからこそ、そうした心理療法が有効なのです。

催眠療法などでその場面に戻り、セラピストと共に再体験しながら
「なぜ、ご両親は離婚に至ったのだと思いますか?」と問うと――
大体その前には、父母のさまざまな言動のエピソードも
いくつか出てきているので――
クライアントは

「父はすごく短気で、不機嫌になるとすぐに母に手をあげた。
それに母があんなに尽くしたのに、
まったく理解も感謝の言葉もなかったし。
母は私も連れていきたい気持ちはあったと思う、でも
当時は母一人だけでも暮らして行くのが大変だったから、
子供を連れ出す余裕がなかったんだと思う」

など、今や大人になってある程度
社会の仕組みがわかっているクライアントは
実感をこめて、淡々と述べたりします。

「あの状況じゃあ仕方ない、何も私(クライアント)が
悪かったからではなく、状況からして止むを得なかったのだ」
と自然に納得できるのです。

こうして「両親の離婚」に伴っていた思考と感情が変化しその体験
(つまり過去)への見方が変わると、「母に愛されなかったダメな自分」という自己評価が、よりニュートラルで正当な評価に変わり、
それが日々の対人関係にも反映されていく……というように、
実生活に生かされていきます。

前世を「知る」ことの心理的効果も同様です。
そして、受け手によって間違った使われ方をした場合の害もまた、
他の心理療法と同じです。

アダルト・チルドレン(AC)概念を誤用した人たち

その「害」については、香山氏自身が本書の中で引用している
信田(のぶた)さよ子氏の著書の説明部分に、そのまま反映されています。

信田氏は、原宿カウンセリングセンターの所長として、長年、
若い人の心のケアにあたり、日本におけるアダルト・チルドレン研究の
第一人者として知られている人です。

ちなみに信田氏によるアダルト・チルドレン(以下AC)の定義は
「現在の生きづらさが親との関係に起因すると認めたひと」です。

自分がACだと自覚した人は、とかく
「私がうまく生きられないのは親のせいだ」と老親を責めがちで、
この概念の発祥の地であるアメリカでは子どもによる親の訴訟も
頻繁に起きています。

信田氏によると、この「自分に責任はない、親のせいだ」という自覚は、
次のステップである「自分の背負うべき責任」に目覚めるための
ひとつの通過地点だということですが、実際にはそこに至らずに
親を責めたてる例ばかりがマスコミで取り上げられました。

信田氏はいいます。

九六年の流行語にまでなったACだが、このことばが歓迎され、
同時に嫌悪にも似たバッシングを引き起こしたのは、
「あなたに責任はない」という免責性(イノセンス)の強調にあった。

つまり、「親に虐待されるようなダメ人間な自分」と
過剰に自罰的になるのを止め、代わりに
「一個のちゃんとした人間として、社会の中で責任を持って行動する」
ためのACの本来の概念が、患者によって誤って使用され
親への他罰感情に凝り固まってしまう、というものです。

前世や輪廻転生概念の誤用も同じで、
「前世であんなに大変な目に遭ったのなら、
つい現世まで不安を引きずって来てしまったのも仕方ない。
でももう現世では恐れるべき対象はもうないのだから、
安心してノビノビと生きよう」
となるのが本来の目的です。

しかし、例えばタイタニックの例で
「自分は海難事故でこんなに今も毎日心身の後遺症が残っているのだから、一生傷病年金をもらえてしかるべきだ!」
などと考えたとしたら、全くの誤用です。

現世の親へとは違い、さすがにそのような裁判を起こす人は
いないでしょうが、
「前世のせいで今の私がこうなったのだから、
今不幸せなのは私のせいじゃない。
今の私に責任はない、だから別に自己改善努力は必要ない」
と思う人は、前世概念の間違った使い方をしています。

また香山氏は、さっき引用した部分の直後に
「ACの逆バージョン」という言葉を述べていますが、
これについての記述も、やはり前世概念の誤解に基づく間違いです。
香山氏はいいます。

「ACの逆バージョン」とは何か。『江原啓之のスピリチュアル子育て』
という本に関する信田氏の分析から引用しよう。

子どもが生まれたのは子どもの選択によってであり、
選択責任は子どもにある、と江原は述べる。
しかも選ばれた責任が親に発生するとは書いていない。

読者である親たちも自分の親を選んだことになるが、
その点については触れていない。
あくまでも育児書だから、その点は不問に付すことができる仕組みに
なっているのである。(中略)

…江原が何度も「選ぶ」「意志」ということばを使用しているのは、
偶然やなりゆきではないことを強調するためであろう。
読者に届けられるのは、選ばれた親であるあなた、
全部子どもが選んだのだから
あなたは悩む必要はないというメッセージである。

つまり同書は、「子どものイノセンス」ではなく
「親のイノセンス」のために書かれた本である。

この信田氏の記述に対して香山氏はこう書いてます。

では、「あなたはこの時代、この性、この親を選んできた」と説く、
誕生や人生の自己決定論派ともいえる江原氏をはじめとする
スピリチュアリストたちは、
「だから親に責任はない」と「親のイノセンス」を主張すると同時に、
「自分で選んだのだから、人生に責任をとりなさい」と
「子の自己責任」を促しているのだろうか。

これについては、2005年(つまり香山氏の本の一年前)に刊行された
飯田史彦氏の著書
『ソウルメイト』にて、既に回答がなされています。
以下、飯田氏の引用です。

ただし、誤解してはならないのは、
「お前が選んで生まれてきたのだから」というのを理由にして、
子どもを虐待するのは筋違いだということです。

親である限りは、自分を親として選んでくれた
ありがたい子どもに対して、
精一杯の愛情で接する努力をすることが、
最低限の責任であることを忘れてはいけません。

実際に、胎児の中に入っていく前に、
親として選んだ母親の潜在意識に対して、
「あなたの子どもになってもいいですか?」
と確認し、必ず承諾を得るのです。

まず子どもが親を選ぶというのが基本形だとしても、
親になる側も、心の奥で
「どうぞ、私の子どもになってください」
と望んだからこそ、その子が生まれてきたのです。

そもそも、江原氏をはじめとするスピリチュアル系の教えで
「子が親を選んで生まれてきた」と考えるのは、子供に対しては
「親を恨んでばかりいないで、少なくとも大人になって以降は、
自分で自分の人生を良くするべく努力せよ」と伝えるためです。

一方、親に対しては、通常の理想とされるのと違う子供を授かった場合
(例えば先天的障害を持つ、幼くして不治の病や事故で死亡する、
親と性格や価値観が著しく異なり育てるのに苦労する、など)に、
ともすれば
「私がちゃんと努力しなかったから、子供がこのようになってしまった」
という罪悪感や自己愛の傷つきで激しく悩むことから
少しでも楽になれるように、ということからのはずです。

どんな思想も、中途半端な理解だといかに誤解で終わってしまうかが、
ここでもつくづくと感じられます。

「全ての出来事には意味がある」と考える人は、権力者の餌食になる??

また、香山氏は飯田史彦氏の別の著書『[新版]生きがいの創造』において
「人生で直面するすべての事象には意味や価値があり、
すべての体験は人生の学びのために
自分が生まれる前に設定したことである。

だから一見悪い出来事も誰かや環境のせいではなく、
自分の成長のための順調な過程と知ることで、
人生の挫折・不運・失敗といった言葉が消えうせ、
私たちは安堵感と納得感をもって生きることができる」
という内容に対し、以下のように述べています。

読者が本当にこの通りに生きたとしたら、
「あの人のせいでひどい目にあった」と自分を棚に上げて
すぐに他罰的に親や職場の上司を責める人もいなくなるかわりに、
権力にとっては、何があっても異議申し立てをしない
御しやすい人になってしまうのではないだろうか、と心配になる。

こうした感想を持つのも、この輪廻転生/前世思想の心理的効果を
中途までしか理解していない場合にありがちなのですが、
もちろん香山氏だけでなく、多くの同様の読者もいることでしょう。

もし現世で、自分を虐げる親や上司がいる環境に
入ってしまっていることに気づいた場合、
スピリチュアリズムが助言する対処法は
「自分でこの環境を選んできたのだから」と
ただ受け入れることではありません。

その反対で、

「このようなハードな環境に入ったのは、
ただ受身でいて自分を主張することをしなかった前世のような、
無念な一生を繰り返さないため、現世でこそはきちんと自己主張をし、
自分を正当に愛することを訓練するためだ。

何せ不慣れなので大変だけど、また前世と同じことを
繰り返していては成長がない!
今度こそチャレンジしてみよう」

とする見方、行動方針なのです。

正当な自己主張に必要なのは正当な自己愛だが・・・

そしてそのような自己主張をするためには
「自分の意見や気持ちを通そうとしても良いのだ」という、
正当な自己愛がなくてはできませんが、これまでの対人関係で
他者にいわれっぱなし、されっぱなしのパターンばかり経験していると、
相手の反論や攻撃に立ち向かうのが相当に難しいものです。

そのため、そこからは信頼できる友人や先輩、あるいは
カウンセラー等の助けを借りながら、
「自分を愛するには、どのように考えれば良いか」とか
「自分の気持ちや考えを、相手にどのように伝えるか」を
一つ一つ学んでいくのです。

そうした目的にアサーションという、自己主張トレーニング
一般向けセミナーもあります。
もともとは家庭内暴力を受けて来た妻たちなどに向けて始められた
ものが多いアサーショントレーニングですが、
もちろんそれ以外の対人関係でも共通する内容です。

運命論を悪用する人につけこまれないためには?

また『ソウルメイト』では、こうした
「自分で選んで生まれてきたという考え方」を
他人をコントロールするための道具として悪用される例として、
以下の説明をし、注意を喚起しています。

ソウルメイトの概念は、あらゆる言葉や概念がそうであるように、
「道具」として善用することもできれば、
悪用することもできます。

したがって、この概念を悪用すれば、
「運命」を信じやすいタイプの人々を、
容易にコントロールして利用することができるのです。

たとえば、ソウルメイトの概念は、
しばしば、次のような言葉で悪用されます。

「私とあなたはソウルメイトなのだから、
 あなたは私の言うことに、従わなければならない」

「私とあなたはソウルメイトなのだから、
 あなたは私を、好きになるはずだ」

「私とあなたはソウルメイトなのだから、
 あなたは私を、助けてくれなければならない」

「私とあなたはソウルメイトなのだから……」

このような言葉によって、誰かが、
「私とあなたはソウルメイトなのだから」という理由で、
自分に何かを要求してくる場合には、
大いに気をつけなければなりません。(中略)

「ソウルメイトだから」という理由で、
自分の意思に反してまで、ほかの誰かに従う必要はありません。
「ソウルメイトだから」という理由は、あくまでも、
「自分が自分に対して人生を説明するための道具」であり、
ほかの誰かから、「ソウルメイトであること」を理由にして、
何かを強要されるべきではないのです。

したがって、「何か時空を超えた理由らしきもの」
に基づいて思考するのではなく、
今この瞬間を生きている自分の意思によって、
目の前の現実に基づきながら、物事を判断するよう心がけましょう。

その意味で、「過去生の記憶」が心の病の治療に役立つという
一部の人々を除いて、健常な一般人にとっては、
「自分が過去の人生で、どのような人間だったのか」
という興味など、重要なことではないのです。

そう、どんな哲学・思想・宗教も、現世をより意義深く、
不安少なく生きていくための道具なのであって、
道具に翻弄されては、全くの本末転倒なのです。

・・・

次回は香山氏のスピリチュアルに対する批判の理由3つ目、
「今どきのスピリチュアリズムでは『お金を持つことも良いことだ』
 と肯定し時代の気分に合わせている」
という記述について、解説していきます。

<参考図書>
『スピリチュアルにはまる人、はまらない人』https://amzn.to/2EKqL9W 
『江原啓之のスピリチュアル子育て』https://amzn.to/2Drp7tu 
『ソウルメイト ――「運命の人」についての7つの考察 』https://amzn.to/32J0l0s 



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ホリスティック(※)精神科医として、できるだけ薬を使わずメンタル改善する方法を様々に模索し、相談者にご提供してきました。このブログではその中でも特にアート(特に絵画療法)のエッセンスを通じてあなたが自己ヒーリングできるように工夫した情報を発信していきます。 ーーーーー ※ホリスティック:「統合的、総合的な」という意味。ここでは薬物療法オンリーの従来型精神医学の限界を突破するために深層心理学、催眠療法(ヒプノセラピー)その他のスピリチュアル、アロマセラピー、そして精神症状を改善するエビデンスのある分子整合(オーソモレキュラー)栄養療法を通じてメンタル不調を改善することを指します。