精神科医がスピリチュアルを誤解するとき

精神科医がスピリチュアルを誤解するとき

前回までは脳機能学者苫米地英人氏のスピリチュアル批判書を
題材にしてきましたが、
今回からは、日本の一般大衆に最も名を知られている精神科医の
トップ数人のお一人、香山リカ氏の著書を題材にしていきます。

今回取り上げるのは、2006年に出版された香山氏の著書
『スピリチュアルにはまる人、はまらない人』です。

著者の香山リカ氏は、現代社会批判、サブカルチャー批判や、
その根底にある心の問題について、医学生時代から
多くのメディアについて発言している精神科医です。

私よりいくつか年上なので、その幅広い著述内容や臨床経験の描写は、
自分の仕事の先輩として、学生時代から憧れと共に読んでいたものです。
今でも新刊が出ると、必ずといって良いほど内容をチェックし、
興味ある分野なら購入しています。

そんな中で出版された本書は、非常に歯がゆい内容であったのが、
残念でした。

香山氏も江原啓之氏をはじめとする、何人かの有名どころの
スピリチュアリストたちの発言を取り上げながら論を進めているのですが、そしてその内容は一定部分まではきちんと踏まえられての記述なのですが、
残念ながら最も根本の部分――
「あと一歩なのになあ」というところで掘り起こし作業が中断しており、
このため不完全な理解に基づく批判になっているのです。

それは喩えていえば、土に生えている植物の苗株を見つけ、
研究のために発掘採取しようとするが、根っこの部分まで到達しないうちに
引き抜いてしまったため不完全で、生命力を持たない状態なのを、
そのことに気づかず
「この植物(思想)は不完全だ、なぜなら…」
との結論を出すようなものです。

もちろん私とて、スピリチュアリズムの全容をきちんと
把握・理解しているなどとは思っていません。
そんなことは一生かかってもまだできないことでしょう。

しかし香山氏のように活躍が長くメディアへの影響も大きな方が、
的を射ていない論理展開で結論をくだすことには、
どうも私も心穏やかではいられません。

香山氏の主張は、主に以下の4点にまとめることができます。

精神科医がスピリチュアルを批判する4つの理由

それは以下の4つとなります。

(1)スピリチュアリズムは従来の諸宗教のような利他主義が
  ベースになく、あくまでも個人の今の幸福を追求する、
  現世利益主義である。

(2)自分の悩みの原因を前世にあるとすることによって、
  現世で自力で改善しようとする意欲を持たなくなる。

(3)今どきのスピリチュアリズムでは「お金を持つことも良いことだ」
  と肯定し、時代の気分に合わせている。

(4)自分が欲しい物を願い、引き寄せ、達成したら
  その影には泣く人もいるかもしれないのに、
  その点については考慮されていない。

今回は(1)について解説します。

(1)スピリチュアリズムは従来の諸宗教のような利他主義がベースになく、あくまでも個人の今の幸福を追求する、現世利益主義である。

ここで明らかなのは、霊と交信することじたいが、
スピリチュアリズムの目的ではないということだ。
あくまで、それを用いて、いまの自分について考える。

しかも、自分が
「なぜ生まれたのか」「生きている意味とは何か」
「本当の幸福を得るためにはどうすればいいのか」
といったことについて考える。
それが、スピリチュアルの目的だ。

つまりそこにあるのは、一見、哲学的な思想のようだが、
実は圧倒的な自分中心主義であり、しかも「現世」中心主義なのだ。

とあります。
しかし今述べた3つの問いは、哲学および諸宗教の、
根源的なテーマではないでしょうか?

そしてこれらを現世中心主義というならば、
昔ながらの代表的な宗教も含めて全てが、
現世中心主義とくくられることになるでしょう。

 また現世中心主義を
「今のこの地上の人生における、お金や社会的地位、
 愛情関係などの成功を良しとする」
というようにより狭義に捉えた場合でも、諸宗教で
こうした要素を除外したものなど、あるでしょうか。

例えば仏教は、インドで生まれ中国を経て
6世紀頃に日本に伝わって来ましたが、
当初は皇室や大貴族たち特殊階級の者たちだけのものでした。

それにはいくつか理由がありますが、
その主な一つは難解な教義・思想体系でした。

限られたエリートの思想だった仏教が一般大衆に浸透したのは、
法然の浄土宗をはじめとする
鎌倉仏教各宗派によるものだと多くの歴史書にはありますが、
以前の動画でもご紹介した『3日でわかる宗教』という書籍によれば
それは過大評価で、仏教の大衆化への最大の功労者は
時宗を興した一遍だということです。

時宗も浄土信仰系の一宗派であり、南無阿弥陀仏の念仏を唱えることで
救いが得られると考えますが、浄土宗と浄土真宗が「信じる心」を
重んじるのに対して、時宗は、信心をもつかどうかは
あまり問題にしておらず
「なにも考えず、一心不乱に念仏を唱えればいい」
という、より平易な教えを説いたのが特徴でした。

このように、「それを信じることで自分にメリット、見返りがある」
と感じられることが前提で、しかも「簡単、手軽に」
実行できるものでなければ、民衆に宗教は広まりません。

また現代において、故人の納骨がされたお墓参りをする日本人は、
ある調査によれば74%以上とのことですが、
日本にこのような「遺骨信仰」が広まったのは十‐十一世紀頃で、
浄土信仰の普及と同時代です。

そしてこれは高野山の僧侶たちが
「遺骨の一部を高野山に納めれば、間違いなく浄土へ行ける」
と説いたことが遺族の心をとらえ、納骨の習慣が始まったとされています。

ちなみにインドでは遺骨を川に流し、墓はつくりません。
遺骨信仰は日本のオリジナルなのです
(これも『3日でわかる宗教』にあります)。

時代がくだって江戸時代初期に、戦火など幾多の災難に遭い
ぼろぼろになっていた奈良の大仏再建に生涯をかけた僧、公慶は、
全国を行脚して再建費を民衆から集めて回り、ついに
再建を果たした人ですが、その手法は現代も通用する、
よく工夫されたものでした
(これはNHKテレビの番組「歴史秘話ヒストリア」の
『奈良の大仏 奇跡の復活劇』という回で描写されています)。

例えば、大仏など見たこともない人々の心をつかむために、
「らほつ(大仏の髪の毛)」の実物大の見本(直径約20cm)を
見せながら話しました。
これは大仏の偉大さを伝えるためです。

そして人々も現世や来世の幸せを約束してもらおうと
喜んで寄付をしました。
7年かけて公慶が集めた金額は何と1万両(現在の価値で10億円)に
のぼったといいます。

もちろん公慶自身は非常に敬虔な仏教徒であり、
行脚の間も一度も横になって寝なかったほどだということです。

その理由は
「(大仏殿が焼失して)大仏様が雨ざらしなのに、
自分だけ安楽にしているわけにはいかない」
という気持ちからでした。

仏教を広めると同時にその体現者としての大仏再建をするため、
かつ、知識も経験もない民衆に理解されやすくするために、まずは
「信心と寄付」を提供すれば「来世での安泰を約束される安心感」
というメリットを得られる、という形で一般の人の心をつかんだのです。

そもそも仏教そのものが、日本に輸入されることになった目的が護国、
つまり国を保護してもらうことであり、
仏教が「国家の繁栄と安泰に寄与するもの」としてでした。
これこそ最大規模の「現世利益」そのものではないでしょうか?

更にもともとの日本の民族宗教である神道からして、家内安全・商売繁盛
などの現世利益を神社に祈りますが、これは最近になって
人々の心が堕落したからではなく、神道がもともとそのような考え方を
良しとするからです。

すなわち、自然の万物に生命があると考えるところから
人も自然の一部ととらえ、
その生(すなわち命)が祖先から子孫へと
バトンタッチされる性質のものであることから、現世の人間の務めは
生命を次々にまっとうすることであり、つまりは生を謳歌すること
だからです(『3日で~』)。

江原氏をはじめ、名の知れたスピリチュアリストたちが
「神社で自己中心的な、現世利益的な願いごとをするのは本来ではない。
神様への挨拶、生かしてもらっているお礼、どのようにすれば神様のお役に立てるかを問いなさい」と述べているし、それは全ての宗教で
本来目標としている利他主義をめざすための尊い心がけですが、
最初はなかなかそのような高尚な考え方はできないものです。

はじめはやはり、神にすがったり、願ったりというところからでないと、
そうした場に近づこうというモチベーションが起こらないでしょう。

そして確かに、かなりの割合の人々はその初期段階の心がけのままで
一生を終えてしまうかもしれませんが、何割かは更に深くその教え
(もちろん神道に限らず他の宗教、そしてスピリチュアリズムもですが)
のことを知りたいと思い、自分の心のありようを改善しようと
し始めるでしょう。

そうしたことの入り口として、最初は極めて俗っぽい
御利益追求から入っても、それは仕方ないのではないでしょうか。

次回は香山氏の2つ目の批判項目、
「自分の悩みの原因を前世にあるとすることによって、
  現世で自力で改善しようとする意欲を持たなくなる」
という点について、解説していきます。

<参考図書>
『スピリチュアルにはまる人、はまらない人』https://amzn.to/2EKqL9W 
『3日でわかる宗教』https://amzn.to/3gD72pL 

 

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ホリスティック(※)精神科医として、できるだけ薬を使わずメンタル改善する方法を様々に模索し、相談者にご提供してきました。このブログではその中でも特にアート(特に絵画療法)のエッセンスを通じてあなたが自己ヒーリングできるように工夫した情報を発信していきます。 ーーーーー ※ホリスティック:「統合的、総合的な」という意味。ここでは薬物療法オンリーの従来型精神医学の限界を突破するために深層心理学、催眠療法(ヒプノセラピー)その他のスピリチュアル、アロマセラピー、そして精神症状を改善するエビデンスのある分子整合(オーソモレキュラー)栄養療法を通じてメンタル不調を改善することを指します。