2)「科学的」V.S.「スピリチュアル」――真に「科学的」なスタンスとは

2)「科学的」V.S.「スピリチュアル」――真に「科学的」なスタンスとは

前回の記事で述べたように、かつてのような
強固な共同体の中で一生を送る人生から、現代では
多くの人が成人する前後には故郷を離れ、

血縁や地縁のない、全くのゼロベースから
人間関係を築かねばならないことが増えました。

典型例として地元で生育し、
大学から東京に入学した一人暮らしの学生を
モデルとして考えてみましょう。

それまでは実家で、親にあれこれいわれる煩わしさと引き換えに
衣食住そして学費含めた金銭面全ての面倒を
見てもらっていたのが、突然一人暮らしになり、
家事雑事を含めて全て自分でやらなくてはならなくなります。

多くの人は「受検が済むまでは」と、
勉強以外の社会的スキルを
身につけるのを
後回しにすることが許されて来ましたが、

その結果として入学後は

不慣れな対人関係の築き方を含めて、
誰にもほとんど教わる機会もないまま、我流で
試行錯誤の中から身につけていかなくてはなりません。

単純な、近所への引っ越しでさえ
結構な心身への負担になるものですが、
それが住環境も、学業も、人間関係も一変するのですから、
大きな負荷を受ける時期だといえます。

こうしたギャップの大きさ、
そして人的サポートの少なさから

落ち込みや不安、不眠に襲われ
メンタル不調になってしまう人も珍しくありません。

昔からいわれていた「5月病」とか、
学生のみならず新入社員の欠勤といった問題も
こうした背景から起こりやすくなります。

こうしたメンタル不調を予防・改善するには、
普通に考えても少しずつ友人関係を増やしたり

自分が打ち込める趣味や好きなことを
見つけるのが良いだろうことは、誰でもわかりますが、

新たな環境での人間関係作りが苦手な人ほど
不安や落ち込みになりやすいわけですから、
どんどん孤立し、不調も悪化するリスクが高まります。

実際、大学等で勝手がわからず孤独で不安な新入生を狙って、
親切に相談に乗ったり食事会で「仲間」に紹介していく
形で近づき、
信者を増やす新興宗教も少なくありません。

私自身も、特殊な全寮生活で人間関係に疲れ、
それでいて孤独感にさいなまれていた時期に
同級生から、とある宗教の
パンフレットを渡されたことがあります。

(宗教自体には、私は小学生までに
かなり濃密に接する機会があり、
そこには
私にとっての救いはないと
既に感じていたので、パンフレットは
ためらいなくすぐに破棄しましたが)。

しかし特定の「宗教」の教義ではなく、
自分自身が納得できる世界観、

「人生のしくみ」を身につけることができれば、
こうした漠然とした「生きていくことへの不安」は
大幅に改善できるのです。

ただ、そのためには、「理性的・科学的」な考え方と
「直感や感情をメッセージとして活用する」
あり方の双方をほどよく取り入れた、
中庸的な立場を保つ必要があります。

いいかえれば

「ガチガチの理屈だけでも人生が行き詰まるが、
何でも<神様>などに依存していても、
充実感ある人生は生きられない」

ということです。

この後の文章では「科学的思考が欠落して
スピリチュアル依存にになってしまう間違い」と、

その真逆である「科学万能主義を盲信したあまり、
かえって視野狭窄を起こして<非科学的>になっている例」
について述べ、

何が問題なのか、どうすれば
より実用的な中庸の道へすすめるのかについて、
ご説明します。

(1)そもそも「科学的」視点が前提になっていない例

①「実験」と「デモンストレーション」の違い

私自身は学生時代から自然食などに関心があったため、
市販で多用されている食品・掃除用品などがいかに毒物を含み、
危険かという告発書も何冊か読みましたし、

大学の一時期、そうした考えを共有する人向けの
月報のようなものを取って
読んでいたこともあります。

ただそうしたものの中には、明らかに
「科学的思考」の展開の仕方が間違っていて
とても読むに耐えないものも散見されたため、
途中から購読を止めてしまいました。

それはたとえば、以下のようなものです。

ある号には、市販シャンプーはいかに危険かを
証明する実験をした結果を発表していました。

そこでは某大手会社のシャンプーで女性3人に洗髪してもらい、
どのくらい洗い流したら成分が排水から検出されなくなるか、
を示していました。

結果の数値を正確に記憶はしていませんが、
確か20リットル以上でゆすいだ後もわずかに検出されたので

「シャンプーの残留成分がなかなか消えない。
これは人体にも害だし、環境を汚染するので使うべきではない」
という結論でした。

この説明には、少なくとも2つの問題点があります。

第一に、実験結果から、一般化された結論を出すには
統計学的な処理を経なくては意味を成さず、
統計的に意味あるものにするためには
実験対象数(母集団)を最低でも数十、
できれば数百あるいは数千以上が必要です。

わずか一人とか数人による「実験」は、
特にテレビの健康番組等でよく行われる手法ですが、
それらは「ある人たちの例」を提示したに過ぎず、
それを一般化した結論に結びつけることはできません。

すなわち、そもそもこうしたものは読者やテレビ視聴者に

「実験するとしたら、どんな感じでやるのか」
「参加者たちのしていた体験はどんなものだったか」

を感覚的に追体験してもらうための「デモンストレーション」であって、
「実験」の体をなしていないレベルなのです。

第二に、前述のシャンプー“実験”においては、
シャンプーしか使っていませんが、
通常、シャンプーはリンスと対で使うものです。

ここで補足ですが、現在はリンスよりも
より保湿性の高い「コンディショナー」がペアで使われますが、
私が学生時代だった1980年代はリンス主体で、

しかも当時のシャンプーは洗浄力が強すぎて、
皮脂たっぷりの20代の若者でも髪がきしむので、
必ずといって良いほどリンスとペアで使っていたものです。

そういう背景があったので、シャンプー「実験」を
行なうからには、シャンプー後にリンスも使った形でないと
実用的意味がないのではないか、ということです。

というのも、リンスの本来の役割は
アルカリ性であるシャンプーで滑りの悪くなった髪を
リンスの酸性で中和し、洗い上がりを
「すべすべ、しっとり」にする、というものだからです。

したがってシャンプーとリンスを続けて使うことで、
例えばこれらの成分の一部が反応して
残留物の科学的性質が変化する、ということはないのか、

もしあるならシャンプーのみ使用時と比べて
人体や環境への影響に違いはあるのか、
なども調べなくてはならないはずですが、
そうした点への言及もありませんでした。

こうした程度の「科学的」思考は、
中学までの義務教育でも基本は身についているはずなのに、

実際には自分の主張したい結論があると
一気に飛躍していまうことが、
スピリチュアリスト(つまり、神様や守護霊大好きな人々)や
ナチュラリスト(つまり無農薬や植物食礼賛する人々)に、
残念ながらちょくちょく見られる傾向です。

本当の科学的な思考とはどんなものかについては、
この次の項目も合わせて読まれると
わかりやすいかと思います。

②サイト「『水からの伝言』を信じないでください」について

2000年代の初め頃でしょうか、
『水からの伝言』という本が
ベストセラーになったことがあります。

詳しくはサイト「『水からの伝言』を信じないでください」(2006年)
を見ていただければわかりますので本稿では詳しくは述べませんが、
一言でまとめると

「水に『ありがとう』等の<良い>言葉をかけるときれいな氷の結晶ができ、『バカヤロウ』等の<悪い>言葉をかけると崩れた結晶ができる。

そして、人体も大半が水でできている。
だから<良い>言葉をかけて、自分や周りの人達を良くしよう」

という主張です。

一部の小学校では、道徳の授業の副読本として
教師が採用したという話もあります。

サイト「『水からの伝言』を信じないでください」の作者、田崎氏は
学習院大学理学部物理学科主任教授であり
理論物理学・数理物理学・統計物理学を
専門とする人です。

本サイトでの記述はさすがに科学者らしく理路整然としていて、
ブームにもなった「水からのメッセージ」というものが
いかに物理学的に無理があるかを説明しており、
納得できるものでした。

反証のポイントは3つあります。

反証のポイント3つ

(1)江本氏の実験システム形成され観察された「水の結晶」(実は霜)は、あらかじめ音を聞かせた(あるいは言葉を書いた紙を水の容器に貼った)
水ではなく、

観察直前にシャーレの水が凍ってできた氷の表面に触れた、
空中の水蒸気が結晶したものであり、よって
「音を聞かせた」水と「観察された結晶」は因果関係がない。

(2)水の結晶は厳密な温度と過飽和度
(空気の中に、どれくらい水蒸気が含まれているかの目安)
といった環境管理で何度でも再現可能なものであり
逆にこうした実験環境が制御されていない中では
「実験」の体をなさず、結果はバラバラで再現性はない。

(3)結果判定への、実施者の思い込みのバイアスを除くために必須である「ブラインド法」すら行なっていない。

ブラインド法とは、結果の測定者に
サンプルの内容を知られないようにすることです。

この例でいうなら、どのシャーレの水が
「ありがとうという言葉」や「クラシック音楽」を
聞かされ、
どの水が「ばかやろうという言葉」や「ヘビーメタル音楽」を聞かされたか、
結晶の観測者に知られないようにすることですが、
江本氏はサンプル内容を全て観測者に教えてしまっているのです。

こうしたことを、全くの物理学素人にもわかるように
平易に説明して書いてあります。

また
「科学者なら実験をして反証しなくては、
 この理論への反対を言えないのでは?」

といった一般人からの質問には
「それまで正しいと考えられていたことをくつがえすには、
そうしたい側(新説を唱える側。今回の場合は、江本氏)に
証明する(科学的に説得力のある、真に証拠といえるものを
提出する)責任があること」、

(田崎氏はそう思っていないが)
仮に「水からの伝言」に科学のルールを当てはめても良いとすれば
「ともかく、温度と過飽和度を一定に保ち、
 全サンプルについての統計を取ってください。
 話はそれからです」

ということになります。

科学的議論の場に乗るためには、
科学のルールにのっとった実験とその統計処理が
不可欠なのですが、「水からの伝言」に関しては

「そもそもまともな科学実験にすらなっていないので、
わざわざ反証実験をする意味も必要もない」
と、田崎氏は穏やかながら理路整然と、
一刀両断しています。

また、この件で最も問題となったのが、
小学校で道徳や総合教育の授業の教材に使用されたことです
(教科書に載ったわけではないですが)。

似非科学ないしオカルトとみられるような内容を
授業の教材に使うこともそもそも問題ですが、
更に重大な問題点がありました。

例えば「クラシック音楽は善で、ヘビメタは悪」
といったことまで含め、そこには単一の価値観を
押し付けるという問題につながる考え方があります。

道徳をはじめとする価値判断は、
生徒一人一人が考える過程にこそ意味があるのに、
水の結晶という、“科学的証明”の体をした
お墨付きなど要らない、という田崎氏の主張は痛快です。


そして、サイトの末尾に、こうしたページを開設した理由を
以下のように述べています。

この文章のタイトルは、
「『水からの伝言』を信じないでください」です。
もちろん、強く信じている人の考えは簡単には変わらないでしょうが、
それでも、「このお話を頭から信じてしまわないでください」と
はっきり言いたいのです。

では、その後に、「かわりに科学を信じてください」と
続けたいのかというと、そんなことはありません。

科学というのは、世界をより合理的に理解しようと
努力し続ける営みのこと(そして、私たちの生活の大部分を支える基盤)ですから、信じるとか信じないとかいう性質のものではありません
(もちろん、信頼すべき科学者のことは、信頼してほしいですが)。

「信じないでください」の後に何かを続けるとしたら、
「私たちのまわりの世界を虚心坦懐に見て、
色々な事を自分の頭で考えてください」
といった事になると思います。

そのために、小説など色々な本を読むのもいいでしょうし、
ただ自分で沈思黙考するのもいいでしょうし、あるいは、気が向けば、
科学が何を達成してきたかを学ばれるのも素敵ではないでしょうか?

こうした穏やかで、できるだけ中立的に、
自分の頭で考えようとする態度こそが、
どんな価値観を最終的に持つにしろ、
各人に必要なことでしょう。

なお、田崎氏が「たくさんのことを教えていただいた仲間」として
紹介している、大阪大学の菊池誠氏(大阪大学サイバーメディアセンター
教授、専門は学際計算統計物理学)のブログ「kikulog」では、
「波動」「マイナスイオン」「百匹目の猿」「ゲーム脳」といった話題を
「ニセ科学」としてまとめて、項目別に解説しています。

基本知識を一覧するには便利なブログです。

ただし、私が後述している
『代替医療のトリック』について絶賛していたりして、
「科学的検証」を自称する文献に対して、
やや盲目的な賛同もあるように思われます。

次回の記事では、「自分は科学的」と自認する立場の人たちでも
いかに先入観や誤解で間違った結論に飛びついてしまうかを
著名人たちの書作を例に挙げながら解説していきます。

<参考サイト>
「水からの伝言」を信じないでください
kikulog

<関連動画>
その悩み、解決法は脳科学か心理学か、 あるいはスピリチュアル?

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ホリスティック(※)精神科医として、できるだけ薬を使わずメンタル改善する方法を様々に模索し、相談者にご提供してきました。このブログではその中でも特にアート(特に絵画療法)のエッセンスを通じてあなたが自己ヒーリングできるように工夫した情報を発信していきます。 ーーーーー ※ホリスティック:「統合的、総合的な」という意味。ここでは薬物療法オンリーの従来型精神医学の限界を突破するために深層心理学、催眠療法(ヒプノセラピー)その他のスピリチュアル、アロマセラピー、そして精神症状を改善するエビデンスのある分子整合(オーソモレキュラー)栄養療法を通じてメンタル不調を改善することを指します。