強迫性障害と上手く「共存」する方法

スポンサーリンク


先日配信した「強迫性障害を自分で改善するコツ」という記事で、
お伝えしきれなかった点や、補足した方が良い点があると
感じましたので、今回はそれらを追加でお伝えします。

代替行為をするときのコツ

まず、強迫行為をしたくなった時にすぐにしてしまうのではなく
30秒から3分間あるいはそれ以上の時間をいったんおくようにするという、
「暴露反応妨害法」という行動療法の基本についてお伝えしました。

その際に、単に強迫行為を止めるだけだと中断時間が長く感じられて
辛いので、代わりの行為、具体的には例えば深呼吸を10回行なって
時間をやり過ごすと良いですよ、というコツをお伝えしましたね。

そのときに一つポイントがあるのですが、それは
「せっかく強迫行為から離れるために代わりの行為
つまり代替行為をするのだから、
代替行為をしている最中はそのことに全力で集中する努力をしましょう
ということです。

例えば、手洗いを先延ばしするために10回深呼吸をする際に
表面的には深呼吸をしつつも、頭の中では
「さっきの手洗いでは、手のどこが流しのどこに触れたから
こう汚れたかも」
とか
「いや、ぎりぎり触れずに済んだかも」
などと、さっきの場面の検証をしたり、
記憶を細かく思い起こしたりするのは、全くの逆効果です。

なぜなら、頭の中であれこれ強迫不安の内容を考え続けるのも
一種の強迫行為だからです。

強迫性障害を治していくには「暴露反応妨害法」という行動療法を
毎日実行していくことが必須なのですが、
このときに、表面的には行動しているようでも
頭の中では強迫不安の内容を考え続けているようでは、効果はありません。

もちろん、これまでの条件づけでどうしても
強迫的不安の内容の思考は湧き上がってきますが、

そこにハマらず、すぐに深呼吸などの代替行為に
ともかくも意識を戻す、
また強迫不安に気持ちがそれたらまた戻す、
というのを毎日何十回も繰り返す必要があります。

それは訓練であり、人が新しいスキル――例えば英語を学んだり
スポーツを習得したり楽器を習うときと同じで、
とにかく毎日の訓練を欠かさず続けられるかどうかで、
上達速度が比例して変わっていくのです。

そして新たなスキルを学ぶ際には何でもそうですが、
最初が一番大変で難しいと感じますが、実際には
少しずつでもコツコツ続けるうちに、確実に上達します。

そして練習を重ねるほど、さらなる上達は以前よりも
楽に、効率よく達成することができるようになるのです。

なので、全力で、毎日の訓練を続けていってくださいね。

回避行動をしていては治らない

この訓練をせずに、別の手段で不安を回避しようとしても
たとえ一時的には成功したように見えても
いずれは行き詰まります。

例えば現代はほとんど誰でも自分用のスマホを持っているので
写真や動画で「証拠」を残そうという人がいます。

例としては、戸締まりやガスの元栓を締めたかの確認強迫のある人が
きちんと戸締まりした場面の写真なり動画を撮影したりすることです。

当初はそれで本人も安心するのですが、やがてある時
「確かに録画して、その動画上ではちゃんと戸締まりできているけど、
もしかしたらその後知らないうちにもう一度開けた瞬間があったかも。
そしてそれを撮り損ねたかも。あるいは、撮ったつもりが、
スマホカメラの一瞬の動作バグで、撮影が抜けたかも」
などという不安思考を思いついた途端、
写真や動画による「証拠」は不十分な信頼性になってしまいます。

その結果、スマホのその写真や動画を
「確かに撮ったか」とか
「撮影時間で抜けていた箇所がなかったか」
などと、またきりのない無限ループの不安思考にハマってしまい、
結局はなんの進歩にもならないのです。

あなたはぜひ、こんなワナにはまらず、
きちんと毎日の行動療法の訓練を続けて、成果を出してくださいね。

強迫性障害克服者の書籍

あと、今回は強迫性障害に悩み、薬もカウンセリングもなく
自力で克服したという体験者の著書を1冊、
動画下の概要欄に貼っておきます。

『実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則』という本で、
最初は自費出版されていたのですが
結構ニーズがあったらしく、増補改訂版が
心理学や精神医学で有名な出版社である
星和書店から出ています。

そこには、強迫性障害に悩む人にあるあるな思考と
それへの対処のためのルールが列挙されているのですが、
今回はその中から特に典型的で、誰にも役立つものを
いくつか挙げて、解説していきますね。

強迫性障害を治すために覚えておきたい鉄則

(1)今やろうとしていることが強迫行為かどうか、少しでも迷ったら、
それは強迫行為である。

(2)強迫行為を続けている限りは、強迫性障害は治らない。

(3)強迫観念を無視しても、恐れているようなことは何も起こらない。

(4)安心しようとして行なう行為は、必ず新たな不安を生み出す。
つまり、強迫観念は飛び火する。

(5)強迫行為を行なわなかった時の不快感に騙されてはいけない。
タイムラグがあるものの、不快感は時間とともに必ず薄れる。

・・・・・・

(1)今やろうとしていることが強迫行為かどうか、少しでも迷ったら、
それは強迫行為である。

強迫不安や強迫行為を行なう人はしばしば、次のような理由付けをして
自分を正当化したくなります。
曰く、
「でも誰だって、トイレから出てきたら手を洗うよね?
 私はちょっと念入りなだけ」
というわけです。

しかし健常者と強迫性障害を持つ人の違いは、
「いざとなったら、いつもの行為を省略しても平気か?」
で見分けられます。

例えば今年のコロナ感染対応で、公共場所のトイレから手を乾かす温風が出る
エアータオルも、石鹸水もペーパータオルも撤去され、
アルコールジェルは設置されていない公衆トイレに入ったとします。

あなたはそれまでハンカチやティッシュを持ち歩く習慣がなく、
アルコールジェルも持っていなかったので、その結果
今回は手を洗ったまま、拭く手段がない状態となったわけです。

こんなとき、健常者なら
「あちゃー。しまった。今度からはティッシュくらいは持ち歩かなきゃ。
今回は仕方ないや」
と、2-3回パッパと手を振るか、自分の服や髪の毛で
なんとなくぬぐっておしまいにします。
そのことも、トイレから出て1-2分もすれば忘れています。

しかし強迫性障害を患っていると
「どうしよう!手の汚れを十分取れなかった!」
と不安になり、いかに汚れているか、今後どんな害が
自分や自分が触れた場所に及ぶかを延々と考えてしまい、
身動きできなくなってしまうのです。

「これが強迫行為かそうでないか」を見分けたくなったら、
「いざとなったらそれを省略しても乗り切り、すぐに忘れられるか」
で考えてみてください。

2つ目から4つ目は、まとめて解説しますね。

(2)強迫行為を続けている限りは、強迫性障害は治らない。

(3)強迫観念を無視しても、恐れているようなことは何も起こらない。

(4)安心しようとして行なう行為は、必ず新たな不安を生み出す。
    つまり、強迫観念は飛び火する。

強迫観念の思考にふけったり、
強迫行為を繰り返し行なってしまうのは、
もちろん不安を減らして楽になりたいからです。

そして確かに当初の一瞬は、少し楽になった気がします。
が、これはニセの安心感です。
ものの数秒から数分後には同じ不安がまた湧いてきますし、
繰り返すほどその重症度も強まり、持続時間も長くなってしまいます。

強迫観念を打ち消そうとして、例えば
・その「根拠」になる要素――
「大丈夫なはず」と思えるような要素を
 一生懸命思い出そうとする 
とか
・不安を打ち消すための行為
(例えば 手をまた洗う、現場を見に戻る など)
をしても、楽になる瞬間はどんどん短くなり、逆に
不安が悪化していくことは、
多くの人が体験済みのことと思います。

それなのにそこにまたハマってしまうのは、
暴露反応妨害法という行動療法が
有効であることを知らなかったからです。

そしてこの暴露反応妨害法は、
それまで本能的に自分が行なっていた
行動と正反対のことをせねばならないので、

最初は到底信じられないし
信じたくもない、という心理が働くからです。

(5)強迫行為を行なわなかった時の不快感に騙されてはいけない。
   タイムラグがあるものの、不快感は時間とともに必ず薄れる。

これが暴露反応妨害法のエッセンスであり、
辛い訓練の最中にも常に思い出す必要がある点です。

幸いにして、こうした行動療法は最初のとっかかりが
一番難しそうに感じるものの、毎日少しずつでも続ければ
着実に、より楽に上達できるようになっていきます。

なので、これも「心の筋トレ」と思って、とにかく
毎日続けましょう。

強迫性障害とはネガティブな自己洗脳


ところで、
映画「アビエイター」で、俳優のレオナルド・デカプリオが
強迫性障害である主人公の役作りをするために
強迫性障害を患っている人たちとしばらく共に過ごしたそうです。

その結果、見事に演じきりましたが、
内面的にもあまりにも強迫性障害の世界に同一化してしまったため
自身も発病してしまい、その後3ヶ月にわたる
治療を受けて治した、というエピソードがあります。

つまり強迫性障害での不安は、一種のネガティブな自己洗脳から
生じているものなのであり、そこから離脱するためには
「脱洗脳」が必要となるのです。

その脱洗脳の基本になる考え方の例が、先ほど挙げた
いくつかのものですし、
より本格的で系統的なものが強迫性障害への認知行動療法です。

実は強迫性障害の人の多くに、以下のような極端な価値観があり、
しかもそれを「正当だし、当然で、したがって変える必要もない」
と思っている場合が多いのですが、

認知行動療法ではこのような、本人を苦しめるような極端な
価値観を再検討し、より中立的で現実的な価値観に
書き換えていきます。

それが順調に進むと、強迫性の諸症状が緩和し、
気分も体調も生活の質も上がります。

強迫性障害に悩む人の多くが持ちがちな価値観とは、
例えば以下のようなものです。

①完璧主義
自分は完璧にできなくてはいけないとか、
失敗してはならない、などです。

②善良で親切
誰にでも好かれ、受け入れられる人間でなくてはならない。
人に頼まれたことは、自分が無理してでも叶えてあげなくてはならない。

逆に自分が体調が悪くても、忙しくても、他人の要求を優先して
実行しなくてはならない。
不機嫌な表情やそぶりを見せてはいけない。
自分から何かを頼んだり、お願い事をしてはならない。

③曖昧耐性がない
この現実世界を生きていれば、思うようにならないことや
上手くいくのかわからないこと、判断を他人や時間の経過に
委ねるしかないようなことは、いくらでもあります。

例えば
「昨日ママ友のAさんと会話していて、相手が変な表情をした。
嫌われたのではないか?
もしそうなら、今後のママ友仲間との人間関係が悪くなりそう。
なにしろAさんは、ママ友グループのリーダー的存在だから・・・。
ああ、どうしよう?」

だったり、

「こちらの会社の提案を、
クライアントのB社は受け入れてくれるだろうか?
返事は3日後ということだったが、もしもダメだったら
上司からの自分の評価はガタ落ちだ。
そうしたら課長への昇進は絶望的だ。
ああ、自分の人生、これからお先真っ暗になるかも」

などと、まだ何も起きていないうちから1人で勝手に思い悩んでしまい、
その結果、考え始める前よりももっと消耗し、不安もひどくなるので
強迫観念や強迫行為も止め難くなってしまうのです。

こうした客観的でない、偏った価値観や物事の解釈のクセを
より現実的で中立的な考え方に修正していく必要がありますが、
そのためにも一度立ち止まって、不安思考に巻き込まれることから
距離をおく手段が必要となります。

昨年末に出たばかりの書籍で、焦りや不安を自力で緩和する効果のある
「マインドフルネス」と組み合わせた、
強迫性障害を改善するための認知行動療法の
ワークブック形式の本がありますので、
そのリンクも、この記事の末尾に貼っておきますね。

このように、強迫性障害を改善するために
自分でできることはいろいろとありますので、
一歩一歩、前進していきましょう。

・・・・・・

<関連記事>
パニック障害を自分で治すコツ
https://heart-art.jp/self-treating-pd

<参考図書>
『実体験に基づく強迫性障害克服の鉄則 (増補改訂版)』https://amzn.to/2YLpiGu 

『こだわり思考とうまく付き合うためのワークブック
――マインドフルネス認知行動療法で強迫観念と強迫行為を克服する』
https://amzn.to/3dA9EmZ 

スポンサーリンク



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUTこの記事をかいた人

ホリスティック(※)精神科医として、できるだけ薬を使わずメンタル改善する方法を様々に模索し、相談者にご提供してきました。このブログではその中でも特にアート(特に絵画療法)のエッセンスを通じてあなたが自己ヒーリングできるように工夫した情報を発信していきます。 ーーーーー ※ホリスティック:「統合的、総合的な」という意味。ここでは薬物療法オンリーの従来型精神医学の限界を突破するために深層心理学、催眠療法(ヒプノセラピー)その他のスピリチュアル、アロマセラピー、そして精神症状を改善するエビデンスのある分子整合(オーソモレキュラー)栄養療法を通じてメンタル不調を改善することを指します。