目次
認知行動療法も進化している
2021年現在、「認知行動療法(CBT)」と通常呼ばれるものは、
認知行動療法の流れでいうと「第2世代」と呼ばれるものです。
これは「人が受けるストレスの度合いは、起こった出来事よりも
その出来事を本人がどう受け止めたか(認知、つまり意味づけ、解釈)に
よって決まる」、というスタンスです。
なので、起きたことに対して本人が自動的にネガティブに意味づけしてしまう
クセ(自動思考)を意識的に修正し、それになじむように持っていきます。
CBTに対してはその後も研究が積み重ねられ、その結果
2000年代に入ってからはさまざまな応用・発展形が開発されました。
前節(3)マインドフルネスと合わせることでさらに効果を高めた
「マインドフルネス認知療法(MBCT)」もその1つで、これは前節の参考図書としても挙げています。非常に効果的な方法です。
その後、弁証法的行動療法(DBT)とアクセプタンス・アンド・コミットメントセラピー(ACT)も開発され、効果が確認されてきました。
これらは「第3世代の認知行動療法」とも呼ばれ、
それぞれに特長がありますが、共通しているのは
・マインドフルネスを併用していること
・ネガティブな自動思考を修正することよりも、それらがあっても
巻き込まれず、必要な行動をとれるようになるのを重視していること
です。
境界性人格障害にも有効性が証明されたDBT
なかでもDBT は「苦悩耐性を上げる」、つまりストレスを受けてつらい時に
自動的に(ネガティブ思考だけでなく)ネガティブな行動をとってしまいがちな人が行動化しないように、上手に自己コントロールするための具体的手法を提供していることが特徴的です。
このおかげで、ストレスを受けると自分を傷つける行為、例えば
リストカット、過食嘔吐や、アルコール・ギャンブル・買い物・セックスなどへの依存行為をして紛らわすという反応パターンが身についてしまっている人が自傷行為を起こしにくくなり、おかげで自尊心を上げたり、すぐ壊れがちだった人間関係も壊れにくくなります。
境界性パーソナリティ障害(BPD)と呼ばれる人たちは上記のような
自傷行為と対人関係破壊が習慣化しているため、従来のさまざまな心理療法では治すのが困難といわれてきました。
しかしDBT では、それらの人たちの改善率も明らかに上げられるのです。
さらにその後の研究により、双極性障害や発達障害など、感情の調節が困難なために起きるいろいろな問題を改善するためにも、その効果が認められるようになってきています。
DBT が提供する戦略の主な柱は、以下の4つです。
①苦悩耐性スキル
②マインドフルネス・スキル
③感情調節スキル
④対人関係スキル
順に、簡単に解説します。
より詳しく知りたい方は、末尾の参考図書をお読みください。
①苦悩耐性スキル
ストレスを受けるとリストカットしたり、過食嘔吐、お酒などの物質や買い物・ギャンブルといった行為にふけることで、心の痛みを紛らわそうという
条件反射的行動化が、習慣化している人がいます。
これを続けていると自尊心も下がり、ますますみじめになっていきますし、
仕事や家庭生活にも支障が出る、浪費や借金から貧乏になり、健康も害するといった、人生のネガティブループにハマってしまいます。
そうならないためには、ストレスを受けた際に自動的にしてしまっていた
行動を、より無害なものに置き換え、そちらに条件づけし直す訓練が
必要です。
例えばリストカットしたくなったら
・氷を握りしめてその痛さに集中する
・切る代わりに、同じ場所に赤いマジックマーカーで線を書き、
嫌な気分を直視する
・ストレスを与えた相手に思い切り感情的な手紙(またはメール)を書く
(実際には送らない)
・筆記開示(書き出しワーク)をする
・HIIT など、短時間だが激しい運動をする
・涙が枯れるまで泣く
これらを、まず先に行なうのです。
これらを実行しても、それでもやはりむしゃくしゃして、あるいは憂うつ感に圧倒されて、リストカットしてしまうかもしれません。
それならそれで、仕方ありません。
ただ、a)ストレス→自傷行為 と直結していたのを
b)ストレス→代替行為→自傷行為 にするよう、忘れずに毎回実行していると、自傷行為にまで及ぶ頻度が減ってくることがわかるでしょう。
自傷行為にまで至ってしまったとしても、より軽度で、短時間で終わらせる
ことができる確率が増えていきます。
大事なのは、a) ではなく b) になるように、忘れないように、習慣化する工夫をしておくことです。
例えば毎日起床時と昼食後と夕食後に「リストカットしたくなったら●●をする」というメモを見るとか、その一文をスマホのロック画面に固定しておくとか、(一人暮らしなら)トイレのドアの内側とか洗面所の鏡など、毎日何回か必ず目に入る場所にメモを貼っておくなどして、忘れないようにするのです。
②マインドフルネス・スキル
これは マインドフルネスは最も強力なメンタル不調改善法の1つ をお読みください。
③感情調節スキル
自傷行為をはじめとする、ネガティブな行動をしたくなった感情を直視し、
言葉にして表現します。
この③感情調節スキルは、①苦悩耐性スキル とかなり重なり合っている部分が多いので、両方いっぺんに学び、実行するというスタンスでOK です。
なので「ネガティブな行動をしたくなった感情を直視し、言葉にして表現」
というのは、そのまま筆記開示(書き出しワーク)の実施で良いでしょう。
①ではストレスを受けたときの対処法として、より害の少ない代替行為を
しましょうと書きましたが、③感情調節スキルでは、楽しい代替行為を
予めできるだけたくさんリストアップしておき、つらい時にはそこから
1個ないし数個選んで、実行するのをお勧めします。
例えば
・楽しい動画を見て笑ったり、感動できるようにする
・ちょっと良いハーブティーを買ってきて飲む
・落ち着く香りのアロマキャンドルをともす
・公園など自然の多い環境で散歩したり、しばし読書する
・書店に行き、落ち着く自然を写した写真集やかわいい動物の写真集を眺める
・書店内の、普段はあまり読まない分野のコーナーをぶらつき、
試しに何冊か立ち読みしてみる
・雑貨店に行き、興味をひかれる物を手にしてみる
などです。
④対人関係スキル
物事への否定的な思い込み(認知、意味づけ)が根付いてしまっていると、
他の人のちょっとした言動も自分への拒否や批判だと受け止めてしまうため、
良い人間関係が築けない、長続きしないといったことになります。
どんな場合でも
「他人は変えられない、だから対人関係を改善したければ
自分がまず変わる必要がある」
という法則を受け入れ、自分が変わるように練習を続ける必要があります。
これは「アサーション」あるいは「アサーティブ・コミュニケーション」
として確率されたコミュニケーションスキルがあるので、
それにのっとって、自分が毎日訓練をする必要があります。
相手を責めているうちは、対人関係は良くなりません。
アサーションとは何かを一言でいうと
「感情的にならずに、かつ相手が受け入れやすい形で
自分の気持や要望を伝える」
というものです。
下記の記事、特に「決めつけ~」がわかりやすく解説していますので
チェックしてみてください。
より詳しい、具体的なスキルの高め方は<参考図書>をご参照。
<関連記事>
「決めつけ(価値判断)」はあなたも他人も苦しめる
ネガティブ感情は避けず、紛らわさないほうが早く脱出できる理由【ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)のまとめ】
自傷行為依存でストレス対処するパターンから抜け出るために
トラウマさえも、あなたの成長チャンスになる
<参考図書>
『弁証法的行動療法実践トレーニングブック』
『相手は変えられない ならば自分が変わればいい:マインドフルネスと心理療法ACTでひらく人間関係』
『夫婦、カップルのためのアサーション』
(5)アクセプタンス・アンド・コミットメントセラピー(ACT)について
こちらも「第3世代」の認知行動療法といわれる代表的なものです。
そのエッセンスをまとめると、以下のようになります。
・不快な感情を避けようとせず、それを直視する。
・直視しても圧倒されないためのスキルを学び、練習する。
・常にネガティブな自動思考にふけってしまっていることに気づき、
そこから離れるためのスキルを学び、練習する。
・自分の人生で最も大切にしたい「価値」は何かを明確にする。
・「価値」に近づくために有効な行動のみを選び、そうでない行動
(不快感を紛らわせる行動、役に立たない行動)はしないように意識し、
練習する。
特に
・直視しても圧倒されないためのスキルを学び、練習する。
・常にネガティブな自動思考にふけってしまっていることに気づき、
そこから離れるためのスキルを学び、練習する。
のための、非常に重要なスキルが「マインドフルネス」、つまり
「今ここ」に集中することです。
これについては、
マインドフルネスは最も強力なメンタル不調改善法の1つ
をお読みください。
ACT については、こちらの記事に更に詳しくまとめてあります。
ネガティブ感情は避けず、紛らわさないほうが早く脱出できる理由【ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)のまとめ】
ホリスティック(※)精神科医として、できるだけ薬を使わずメンタル改善する方法を様々に模索し、相談者にご提供してきました。このブログではその中でも特にアート(特に絵画療法)のエッセンスを通じてあなたが自己ヒーリングできるように工夫した情報を発信していきます。
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※ホリスティック:「統合的、総合的な」という意味。ここでは薬物療法オンリーの従来型精神医学の限界を突破するために深層心理学、催眠療法(ヒプノセラピー)その他のスピリチュアル、アロマセラピー、そして精神症状を改善するエビデンスのある分子整合(オーソモレキュラー)栄養療法を通じてメンタル不調を改善することを指します。
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