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幸福になりたいなら、幸福になろうとしてはいけない――「幸福になろうとする努力」こそがあなたを不幸にしているしくみ
ACT(アクセプタンス・アンド・コミットメントセラピー)という心理療法があります。
これはDBT(弁証法的行動療法)と並んで「第3世代の認知行動療法」とも呼ばれ、
2021年現在 主流の「認知行動療法」と呼ばれているものの応用版ともいえるものです。
※DBTについては、この記事の末尾に関連記事へのリンクを貼っておきます。
ACTのエッセンスをまとめると、以下のようになります。
・不快な感情を避けようとせず、それを直視する。
・直視しても圧倒されないためのスキルを学び、練習する。
・常にネガティブな自動思考にふけってしまっていることに気づき、
そこから離れるためのスキルを学び、練習する。
・自分の人生で最も大切にしたい「価値」は何かを明確にする。
・「価値」に近づくために有効な行動のみを選び、そうでない行動
(不快感を紛らわせる行動、役に立たない行動)はしないように意識し、
練習する。
特に
・直視しても圧倒されないためのスキルを学び、練習する。
・常にネガティブな自動思考にふけってしまっていることに気づき、
そこから離れるためのスキルを学び、練習する。
のための、非常に重要なスキルが「マインドフルネス」、つまり
「今ここ」に集中することです。
マインドフルネスについても、この記事の末尾に関連記事へのリンクを貼っておきます。
DBTは境界性パーソナリティ障害を改善できるということで大いに注目されましたが、ACT は「心理療法はほぼ不可能」といわれてきた統合失調症への著明な効果(わずか4時間のセッションをしただけで、その後の再入院率が半分に激減した)を証明した研究があり、その有効性が認められています。
もちろん、それほど病理が深刻でない人が実施しても大いに改善が実感できるでしょう。
ACT が提供する6つの基本行動原則は、以下のとおりです。
①脱フュージョン(ネガティブ思考/感情に巻き込まれない)
②アクセプタンス(受容)
③「今ここ」につながり、集中する
④観察する自己
⑤価値の確認
⑥目標に向かっての行動
わかりやすくするために上記をいくつかまとめる形で、
以下に簡単に解説します。
①脱フュージョン(ネガティブ思考/感情に巻き込まれない)
ストレスを受けたとき、あるいは過去の嫌なできごとを思い出したり
未来への恐れや不安に意識を向けたとき、
私たちはネガティブな思考や、
その思考から発生したネガティブな感情にとらわれ、巻き込まれ、身動きができなくなっています。
そして繰り返しその嫌な思考や感情に浸り続け、
ますますうつ・不安・怒り・恨み・イライラ・不安・恐れを強めてしまいます。
その結果精神的に消耗し、パニックや不眠、うつ病になったり、
リストカットや過食嘔吐、アルコールや買い物依存といった、
自分を傷つけ、対人関係を破壊し、
生活を崩壊させるような行動化を続けてしまいます。
自己破壊的な行動に走ってしまうのは、ストレスがあるからではありません。
ストレスから生じたネガティブ思考/感情に完全に同一化してしまい
(融合=フュージョンしてしまい)、そこから逃げよう、なくそう、
感じないようにしようと思った結果、有害な気晴らし行為にふけってしまうのです。
そこでACT ではまず前提として、不快感を避けようとするのではなく
不快感を直視した上で、それを客観視し突き放せるようになろう、
と助言し、そのためのさまざまな手法を教えています。
a)「私は●●という考え/感情を持っている」という
b)ネガティブ思考/感情を歌に乗せる
c)ネガティブ思考/感情を変な声でいう
d)ネガティブ思考/感情に名前(タイトル)をつける(=ラベリング)
e)ネガティブ思考/感情に感謝する
順に解説していきます。
a)「私は●●という考え/感情を持っている」という
私たちの思考の8割はネガティブなものだ、という調査結果があります。
そして人は「考えない時間」はほとんどなく、四六時中考えているので、
少なくとも一日の起きている時間の8割は、ネガティブ思考や、そこから生じたネガティブ感情に痛めつけられながら生活しています。
道理で、たくさんの人がメンタル不調になってしまうわけです。
しかし、思考は思考であり、真実とは違います。
どんなにリアルで真実だと感じられたとしても、それは毎度繰り返される
特定のストーリー(物語)を描写しているものに過ぎません。
代表的な物語は、以下のものです。
・私はダメな人間だ
・私は無能だ
・私は誰にも愛されない
・自分の人生はつらかった。今後もろくなことはないだろう
ほとんどの人は自分の思考=物語と同一化(フュージョン、融合)してしまっているので、これらの思考は現実で、真実だと思いこんでいます。
ACT では、物語が真実かどうかは問いません。
その代わり、「その思考が役に立つか」、
すなわち「あなたが望む人生にプラスになるか」だけを重視します。
上に挙げたような思考はただあなたを落ち込ませ、意欲減退させるので、
役に立たない、それどころか有害な思考です。
なのでそうした思考を真実だと思い込んで同一化しないようにすることが重要です。
そのためには、自分=思考のように一体化せず、以下のようにしましょう。
例えば「私は誰にも愛されない」という思考が浮かんできたら
「私は今、『私は誰にも愛されない』という考えを持っている」
と意識し、心のなかで言葉にします。
そしてこの、新たな思考を言葉にして何回も繰り返しながら、
全力でその思考に集中します。
すると、最初はわずかでしょうが、
ちょっとだけ思考内容から距離を置いた感覚がわきやすくなってきます。
まるで「数歩下がって見た」ように、です。
すぐに実感できなければ、別のネガティブ思考で試してみましょう。
そして一日の生活をしている中で他のネガティブ思考が湧いてきたら、
すかさずそれらに対しても同じ練習を行ないましょう。
1つのネガティブ思考に対して、少なくとも数分間は
「私は今、『●●という思考』を持っている」
と心の中で言葉にしてつぶやき、全力で集中し、
どう感じるかをモニターしましょう。
b)ネガティブ思考/感情を歌に乗せる
ネガティブ思考/感情がわいてきたら、
音楽や歌に乗せてそれを心の中で唱えます。
例えば「ハッピーバースディ」「ジングルベル」や、
日本の歌なら「ぞうさん」「犬のおまわりさん」「春の小川」のような童謡でも良いでしょうし、
あなたの好きなアップテンポな曲でも良いです。
アニメ「ちびまる子ちゃん」のテーマ曲「おどるポンポコリン」などでも良いでしょう。
要するに長調で、気分が自然に明るくなるようなものです。
「ぞう~さん、ぞう~さん、お~鼻が長いのね~」
という音楽で、オリジナルの歌詞の代わりに
「わ~たし、わ~たしはだ~れにも愛されない~~」
などと節をつけて心のなかで歌います。
さあ、どんな気持ちになるでしょうか?
繰り返していると、ちょっぴり滑稽に思えてくるのではないでしょうか。
もしも「ばからしい!そんなことで良くなるなら苦労しないよ」
という思考が出てきたら、すかさずそれも歌に乗せてください。
「ば~かか、ば~かか、そ~んなことで~~、
う~まくい~~ったらくろう~しないよ~~」
はい、リピート!
c)ネガティブ思考/感情を変な声でいう
これは b) と似ていますが、今度はネガティブ言葉を変な声や独特の言い回し、特徴的な声のキャラクターをお思い浮かべながら、
そのキャラクターの声でいいます。
例えば以下のようなものです。
・ミッキーマウス、ドナルドダック
・「スター・ウォーズ」のダース・ベイダー
・ドラえもん、クレヨンしんちゃんe.t.c.
例えばダース・ベイダーの、あのこもった声で
「すーはー、オレは誰にも愛されないのだ、すーはー」
といっているところを想像すると、これも滑稽に思われ、
自分の毎度のネガティブ思考から距離を置きやすくなります。
d)ネガティブ思考/感情に名前をつける(ラベリング)
これは、自分のネガティブな自動思考にタイトルをつける方法です。
例)
「自分は嫌われ者だ」
「自分は上手く対人関係を作れない」
「自分はいつも誰かにいじめられる」
「自分は勉強ができない」
「自分は頭が悪い」
「自分の将来は暗い」
e.t.c.
一日を過ごしながら、あなたの毎度のネガティブ思考がいつ浮かぶか、
注意していてください。
浮かんだら、(これまでのように)それにどっぷり浸ってしまうのではなく、
タイトルをつけます。
「あ、これは『自分は嫌われ者だ』思考だな」
「あ、また『自分はできない』思考が出てきた」
などと自覚するようにします。
e)ネガティブ思考/感情に感謝する
ネガティブ思考は、なぜ生まれ、
何十年もあなたの中に存在し続けているのでしょうか?
それはあなたが、ネガティブ思考が自分の役に立っていると認識しているからです。
例えば子供時代に、父親にこっぴどくけなさられ、「自分は無能だ」「自分は愛されない人間だ」という思考がわき、定着しているとします。
子供時代にはなぜ父親があんなに激怒したのかがわからないので、
「父さんは自分を嫌っていたのだ」と、
子どもの理解の範囲で結論を出してしまっています。
ところが実際には、父親は別に息子を嫌っていたのではなく、
当時体調が悪かったり、仕事で上手くいかずムシャクシャしていただけだったのかもしれません。
しかし子供時代に作られた思考=物語は「自分は無能で、愛されないどうしようもない人間だから、でしゃばらずに目立たないようにしていたほうがいいんだ。
変に自己主張すると叩きのめされるから」
と、それが「真実」として根付いてしまっています。
つまり思考は「身の安全を守るために、消極的でいるべきだ」というルールを決めています。
だからあなたがちょっとでも意欲的になったり、新しいことに興味を持つと
「止めておけ!どうせお前は無能で、失敗するし、誰も助けてはくれない嫌われ者なんだから」
と警報を発します。
それを聞くとあなたはおびえてしまい、(いつものように)何もできなくなってしまう、というわけです。
しかしこうした自動思考は、子供心が作ったころからアップデートされておらず、真実を表していない確率が高いですし、
前述したように、ACT では思考の内容が真実かどうかよりも
「その思考は、あなたの人生を良くするために役立つか?」
を重視します。
その点から考えると、全く役立たない、それどころか気分と意欲を低下させ、
生産性を激減させるというデメリットばかりが大きい、
ということがわかりますよね。
そこでどうするか?ですが、思考にしても感情にしても、
否定・否認しても、抑えつけても、見ないことにしても
それはなくなりません。
それどころか
「ねえ!聞いてるの?
止めとけ、お前は無能だし愛されないって言ってるんだよ、わかった?
ねえ!!」
となおさら声高に話しかけてきます。
なので、否定せず、しかし真に受けることもせず、
その声に対してただこういってください。
「わかったよ、気にかけてくれてありがとう。大丈夫だから。じゃあね」
これを、ネガティブ思考が話しかけてくるたび、
何度でも繰り返してください。
しばらくは根比べのようになるでしょうが、続けているうちに、
次第に「毎度のネガティブ思考」はだんだんと声がトーンダウンしていきます。
これらの手法 a)~e) は、どれを使ってもかまいません。
が、どんな良いツールも、実際に繰り返し練習し、
継続使用して初めてその効果を感じることができます。
どの手法も、毎日10回は使うようにしましょう。
そのためにも忘れないように、例えばスマホのロック画面に
テキスト化した文字の画像を設定するなど、習慣化するための工夫をしてください。
②アクセプタンス(受容)
③「今ここ」につながり、集中する
④観察する自己
これらはいずれも「マインドフルネス」の手法をベースにしたものです。
ネガティブ思考/感情に対して次のような対応をすると、失敗します。
・拒絶する、否定する
・否認する、つまり見なかったことにする、抑え込んでフタをする
・敵対視し、叩きつぶそうとする
いずれもうまくいかず、ますますネガティブ思考/感情を強めてしまいます。
逆に、不思議とうまくいくのは、それらの思考/感情をいったんは認め、
受容し、あなたの中に居座り続けることを許す、ということなのです。
それどころか、そのネガティブ思考/感情のために居場所を作り、
広げてやります。
すると、抑え込まれなくなったネガティブ思考/感情は、
暴れて自己主張する必要がなくなったので、徐々に静かになっていくのです。
「え~、そんなことしたら、ますますのさばるのでは?」
と思われるかもしれませんが、そうはなりません。
ネガティブ思考/感情は自分の主張をあなたに知らせ、
かまってもらいたいので、「ちゃんと認めてもらえた」と感じると暴れる気力も低下し、そのうち「眠って」しまいます。
もちろん、慣れ親しんだ大暴れの習慣はそうすぐにはなくなりませんが、
ネガティブ思考/感情が起きて泣き叫ぶ度に、あなたが
「よしよし、わかったよ~」
と対応するうちに、ネガティブ思考/感情も「気が済んで」、
だんだんと出現しなくなってくるでしょう。
「ネガティブ思考/感情の居場所を作る」には、
具体的には、以下のことをします。
あなたの慣れ親しんだネガティブ思考/感情がやってきたら、
それを観察します。
また、そのネガティブ思考/感情が引き起こす、身体の感覚を観察します。
例えば不安なら、「不安」は身体の主にどこに感じられるか?
それはどのくらいの範囲に感じられるか?
それはどんな色やサイズや形か?
どんな質感か?(例えば冷たいか温かいか、熱いか?
岩のように硬いか、雲のようにモヤモヤしているか、
粘液のようにヌルヌルしているか、など)
それは動きがあるか、静止しているか?動いているなら、どんな動きか?
十分に観察したら、その「不安」の周りに息を吹き込み、
空間を作ってやります。
これにより「不安」はより広いスペースにいられるようになり、
そのぶん、「不安」のすぐ周囲の、あなたの身体を小突き回す割合が減り、おとなしくなります。
先ほど「息を吹き込む」と書きましたが、
1つの目安として、ネガティブ思考/感情の周りに、
10回しっかり深呼吸をして息を吹き込みましょう。
この時は、自分の深呼吸の感覚そのものに、できるだけ集中します。
例えば息が鼻から入ってきて、胸そしてお腹をふくらませる様子、
呼気とともにお腹そして胸が凹む様子、
鼻(または口)から息が出ていく感覚を、
しっかり意識して観察しながら行ないます。
すると、この10回の深呼吸そのものが、1つのマインドフルネスな練習になります。
なのでネガティブ思考/感情が暴れていないときに、単独で行なうのも良いです。
・毎度のネガティブ思考/感情がやってきたら観察→その存在を認めてやる→周囲に息を吹き込む
・10回の深呼吸法
を合わせて、毎日10回以上行なうことをお勧めします。
⑤価値の確認
⑥目標に向かっての行動
この2つについては、この記事で簡略に説明するのは難しく、
無理に説明しても誤解と混乱を招く可能性が高いため、
記事末尾の書籍『幸福になりたいなら、幸福になろうとしてはいけない』
を読まれることをお勧めします。
ただ・・・
「人生の価値」に気づくための質問
ただ、「人生の価値」については、以下の質問を自分にして、
どんな答えが出てくるかを考えてみることは1つのきっかけになるでしょう。
あなたは・・・
・心の深い部分で、一番重要だと考えていることは何でしょうか?
・どのような人生を望んでいますか?
・どんな人間になりたいですか?
・どんな人間関係を築きたいですか?
・自分の感情と戦ったり恐怖を避ける必要がなければ、
そこに使っていた時間とエネルギーを何に注ぎたいですか?
「価値」と「目標」の違い
ここで注意する必要があるのが、
あなたが人生に置く「価値」と「目標」は別物だ、ということです。
「価値」とはあなたが世界や他者とどういう態度で向き合いたか、
その根本となる行動原理です。
価値はあなたが目指す方向であり、終わりのない進化のプロセスなのです。
例えば、愛に満ちた気遣いのあるパートナーになることは価値の1つです。
それはあなたの人生において終わることのないプロセスであり、
愛と気遣いを止めた瞬間、
もはやその価値に沿っては生きていないことになります。
一方、目標は望んでいる成果であり、達成可能なものです。
例えば結婚することは、1つの目標です。
達成されればそれで終了であり、目標リストから消去されます。
結婚してしまえば、愛情深く優しかろうと、冷たくぶっきらぼうだろうと、
あなたは既婚者なのです。
以上、ACT についてできるだけ簡便にまとめてみました。
MBCT やDBT と並んで、
うつや不安などのメンタル不調に非常に大きな効果のある、最新の手法です。
しかも道具不要で、1人でもできます。
ぜひ、取り組んでみてください。
「人生、こんなに楽になるのかー!」との嬉しい驚きと、
ほのぼのとした幸せ感を感じられるようになるでしょう。
DBT、ACT についての情報源
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「決めつけ(価値判断)」はあなたも他人も苦しめる
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<参考図書>
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【Q&A】マインドフルネス(今ここに集中)V.S.「将来への計画性」の違い
スキマ時間で毎日ストレス耐性を上げる裏ワザ
<参考図書>
ホリスティック(※)精神科医として、できるだけ薬を使わずメンタル改善する方法を様々に模索し、相談者にご提供してきました。このブログではその中でも特にアート(特に絵画療法)のエッセンスを通じてあなたが自己ヒーリングできるように工夫した情報を発信していきます。
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※ホリスティック:「統合的、総合的な」という意味。ここでは薬物療法オンリーの従来型精神医学の限界を突破するために深層心理学、催眠療法(ヒプノセラピー)その他のスピリチュアル、アロマセラピー、そして精神症状を改善するエビデンスのある分子整合(オーソモレキュラー)栄養療法を通じてメンタル不調を改善することを指します。
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